EV(電気自動車)の現実と夢
2022.02.06 | ||
先日、トヨタ自動車がバッテリーEV戦略の説明会を行った。 おそらく、馬鹿なマスコミが日本は欧州のEV化に比べて周回遅れなのではないか、等と言うことを頻繁に言い続けているものだからなのだろう。そして自民党の若手の有力議員たちも、これからはEVの時代だ、等というものだからだろう。 しかし、EVというのは問題だらけの自動車なのだ。今はまだたいして普及していないので、大きな問題になっていないが、これが馬鹿マスコミの言うように殆どの自動車がEVとなったらとんでもないことが起きる。もちろん殆どの自動車がEV化するなんて、遙かな未来にはどうなるかは知らないが、我々今成人しているものが生きている間には絶対にあり得ないことだ。 EVが自動車の殆どのシェアを取るなどと言うことは幻想なのであって、近未来の現実にはあり得ない。 でも、欧米の政治家たちがみんな言っているじゃないか、彼らはみんな2030年代にはエンジン車の販売を止めさせると。 しかしながら、こうした政治家たちの殆どは2030年代には引退しているか、死んでいる。そして、自分たちが言っていたことが覆ることを見ることになることは確実なのだ。 EVが抱えている問題はありすぎて、始末に困るほどだ。 まず、第一にEVは急速充電器でも充電に30分から1時間ほどもかかることは誰もが知っていることのはず。今は、EVが日本では1%程しか普及していないのでさほどの問題になっていないが、これが数十パーセントもの普及率になれば、おそろしいことになる。ガソリンスタンドを思い浮かべてみればわかるが、ガソリンの場合には数分で充填が終わるのにEVは30分から1時間も充電が終わるのに時間がかかるのだ。EVが普及して充電スタンドが自動車でいっぱいになってしまえば、たちまちにして充電スタンドの近くには自動車の大行列ができることになるだろう。さらに、ここにトラックが来たらどうなるか。大型の長距離トラックは、300リッターもの燃料を入れることから、大型のトラックをEV化した場合乗用車の6倍もの燃料を入れることになるために、1台で3時間以上も充電スタンドを占拠することになる。 勿論、これほどまでにエネルギーの充填に数時間がかかっていたのでは仕事としてあまりにも効率が悪すぎるので、長距離輸送の大型トラックのEV化は現実的ではないと言って差し支えがないだろう。 マスコミに登場してえらそうに言う者の中には、近い将来EVは5分で充電できるようになるなどと簡単に言う軽薄な輩もいるが、5分で大電流を電池に注ぎ込むには数百から500キロワットほどもの恐ろしく強力な急速充電器が必要になる。EVというのは家庭で使う電力の数日分をバッテリーに蓄えているわけで、それだけの大きな電力をたった5分でバッテリーに蓄えるとなると、高圧大電流が必要となり、変電所から高圧の電力線を引いてこなければならなくなるし、小型の変電設備も必要になるが、そのようなものを町の至る所に設置するとなったら、電力網そのものを変えなければならなくなるだろう。もちろん簡単に5分で充電を、等と言っている輩にはそんなことを理解する頭があるはずも無いのだが。さらに言うと、バッテリーというのはガソリンタンクのようなものとは根本的に異なるものだ。愚か者は、まるでガソリンを注ぎ込むのと同じに考えているようなのだが、バッテリーに充電するということは化学変化というものによって電気を蓄えているのだという子供でも知っていることを理解できていないとしか思えない。 さらに、30分での急速充電でさえもバッテリーの寿命を縮めると言われているのに、高電圧で一気に短時間で充電をすれば当然化学変化を行っているバッテリーに大きなダメージを与えることになるが、そんなことすらも理解するだけの頭が無いのだろう。 マスコミに登場してくる知ったかぶりの愚か者は、EVが普及してきたらどんどん充電スタンドを作れば良いなどと言っているが、昨年から今年にかけての日本での充電スタンドの設置数は減っている。なぜ、減っているかというと、ずいぶん昔に国からの補助金で作られた充電スタンドが老朽化し、古すぎて修理もままならないと言うことから撤去が進んでいるからなのだ。それなら、新しいのを設置すればと思うだろうが、充電スタンドを撤去した役所の人の話では、新たに急速充電の設備を整えると、10億円ほどもかかると言っていた。このときに、何台かの充電機器があってその全てをあわせた金額が10億円なのか、それとも充電設備機器1台についての金額が10億円なのかといった詳細なことは言わなかったのだが、いずれにしても高価格なものであることは間違いがない。充電スタンドを撤去することを決めた役所の人の話では、こんな高価格なものを国からの補助金なしで設置しろと言われても区役所単独の予算では無理だ、と言うことなのだ。 ま、急速充電の設備と言っても全てが同じ価格と言うことでもないのだろうが、だからといって普及したとしても10億円のものが1億円とかそれ以下と言うことは考えにくい。ただし、この充電器というのは今現在普及しているものの中ではハイパワーのものだが、それでも充電に30分から1時間ほどもかかるというものだ。これを5分で充電できるような強力な急速充電の設備となったら10億や20億円ではとうてい無理だろう。こんな高価な物を全国に設置して行くには大変なお金がかかるし、全国に設置し終えたと思ったら、最初の頃に設置したものは老朽化して買い換えないといけないと言うことになってくる。この巨額なお金をいったい誰が負担するのか。 愚か者は、ヨーロッパの道沿いにはたくさんの充電器が設置されているではないか、と言うかも知れないが、ヨーロッパに住んでいる人の話では、道路にたくさん設置している充電器はほんとうに困ったときに家にたどり着くまでの分を充電するために使うもので、あまり実用性は無いと言う。この人の話では150KW以上の充電器であれば30分から1時間くらいで80%程にまで充電できるのだが、道路にたくさん設置している充電器は22KWなので1時間充電しても10%程しか充電できないということのようなのだ。 テレビに出てくる知ったかぶりの愚か者は知らないだろうが、日本で使われている急速充電規格「CHAdeMO 1.0」は50kW、「同1.2」は200kWであり、1.0はヨーロッパの22KWの倍でしか無い。日本でもヨーロッパと同じで50KWのものが最も普及しているのだが、ヨーロッパの2倍と言うことは30分充電してもバッテリーの10%位しか充電できないと言うことなのだ。200KWならば30分から1時間くらいで80%の充電ができるのだろうが、そうしたものはとても高価なので数が少ないはずだが、軽薄なマスコミ関係者は全ての充電器が200KWであるかのような言い方をしている。 これだけではない。150KW以上の急速充電の設備を、普及したEVに対応するためにたくさん設置するとなったら、大電力が必要になるので、そのための高圧の受電設備も設けなければならなくなる。これは10億や20億円などと言うような金額では無く、数十億円以上かかることは確実だ。この巨額な費用を誰が負担するというのだろうか。さらに、高圧大電流を受電設備まで電力を配電するための送電網も必要になる。これは1カ所で数百億円から数千億円もかかることになる。日本全国で行ったらいったいどれほどのお金がかかることか。自動車というものは、日本全国を移動するものなので、日本中で同じような設備を設けないと大きな不満が噴出することになる。 マスコミに登場してくる愚か者は、このようなことが頭に無いのでマンションなどにもどんどん充電器を設置すれば良い等と言っているが、そんな高額な費用をいったい誰が負担するというのだろうか。 現状では、どこのマンションでも殆どの住民はEVなんて持っていないだろう。そうしたなかで1人がEVを買ったとして、そのマンションに住んでいる全ての人に向かってEVのための充電器を設置するので、1世帯あたり数十万円の設置費用の負担をお願いしますと言ったとして、「ハイ、わかりました。」というとでも思っているのだろうか。 今は殆どEVが普及していないので、自治体や自動車関連の企業などがサービスのような形で充電器のコストを負担してくれているので安く見えるが、EVが今の10倍を超えると言っても自動車の普及率全体から見たらごくわずかだが、そうしたことになれば充電のためのコストを受益者が負担してくれと言うことになるのは確実で、そうなったらEVは自動車本体だけでは無く電費も安くない、と言うことがはっきりしてくるのは目に見えている。 ドイツに住んでいる人の話では、「1カ月のEV生活のデータをまとめると、総走行距離は1868キロメートル、充電料金は総額149ユーロ(約1万9千円)で、1キロワット時当たりの料金は60〜110円だった。」 この料金は恐ろしく高いと言うことが、並の頭を持った人ならわかるはず。通常の家庭で使っている電気は、日本の場合では1キロワットあたり20〜30円程だからで、もちろん充電設備の巨額な設置費用を考えたら、このくらいの料金にしないと採算が合わないからなのだろう。しかも、「最も困ったのが、150キロワット以上のストレスの少ない速度の急速充電は高速道路沿いに限られていたことだ。街中はほとんどが22キロワットで、充電するだけのためには使いにくい。」 この人はマンションに住んでいるので、自宅での充電はできないために、バッテリーがなくなると充電するために充電器のあるところに行かなければならないということなのだが、ドイツのように、EV化では先端を走っていると言われている国でも充電器の状態はこの程度なのだ。どうしてかはあまりにも明白だ。150KW以上の急速充電の設備には莫大な費用がかかるのと、送電経路の問題があるからなのだ。 さらに強力な300KWを超えるような充電器を使えばもっと快適になるかも知れないが、そうした充電器を設置するには当然巨額なコストがかかるので充電の際には高い料金を支払わなければならなくなることは、よほどの馬鹿でもないかぎり想像がつくはず。 まぁ、日本や欧米ではなんとかできたとしても、東南アジア諸国やアフリカでは、国の隅々にまで150KW以上の高価な急速充電器を設置するなんて不可能に決まっている。無理強いをしたら、そんな巨額なお金がどこからでてくるのかと言われるだろう。さらに、発電の問題もある。途上国では殆どが石炭火力といった安価な化石燃料で発電しているからだ。 石炭で発電した電気をEVに充電したところでエコでもないし、二酸化炭素の排出を減らすことにはならないということは、普通の頭を持った人なら容易にわかるはず。 そもそも東南アジア諸国やアフリカで電気自動車を買える人なんて、ほんの一握りの筈。それこそ中古のガソリン車を買うのがやっとという人たちが圧倒的多数なのに、電気自動車でなければだめなどと政府がいったら、暴動が発生するだろう。 日本の馬鹿なマスコミが中国のEVの普及率がすごいと言って騒ぎ立てているが、EVが普及したことによって当然予想されたことが現実化して、大きな問題となっている。 中国国内の充電設備は、2021年の公開データによると261.7万基。同時期における新エネ車両保有台数は784万台と、ほぼ車両3台に1台の割合で充電スタンドが準備されていると言われている。 問題は、こうした充電スタンドがEVが比較的普及している都市部に集中して設置されていることだ。主要高速道路上の統計を見ても、ほぼその70〜90%が都市部に近い地域に設置されていて、EVで長距離を走るドライバーはその走行距離と充電スタンドがある所とを計算しながら走ることになる。 EVが十分な距離を走るために必要な充電時間は、1回あたり30分から1時間程かかり、ガソリン車の給油とは比較にならない時間をようする。このために、例えば充電ポストが3基しかないスタンドに10数台の車が順番待ちをした場合には、後続の車両は充電を始めるまでに数時間も待たされることになる。さらにその待ち時間中、バッテリーに残された残余電力量によってはエアコンを切って、寒さ暑さを耐えしのぎながら待つ羽目になるのだ。 こうしたことは大型連休で多くの人が長距離移動を行うという状況では、特に顕著になる。 昨年の国慶節では、中国のネットで以下のような記述も見られるようになっている。 「ガソリン車で10時間程度で行けるところに、EVでは40時間近くかかった」という話が投稿されているからだ。さらには数基しかない充電ポストが壊れていたりした場合、残っている僅かな充電スタンドを巡って殴り合いの騒ぎが起きたりもしたという。 バッテリーは化学変化によって電気を貯めるものなので、温度に強い影響を受ける。国慶節や春節のような寒い時期ではバッテリーの化学反応が鈍くなるために、充電時間が長くなると言うこともある。中国では、最も寒い時期には充電時間が7割ほど余計にかかるという話もある。 繰り返して言うが、中国のEVの普及率は5%にも達していない。たった4-5%程度のEVの普及率で、充電を巡って騒ぎになっているのだ。これがEVの普及率が10%、いや20%になったらどうなるかだ。充電スタンドの前の大行列は日常的なものになることは確実だし、連休時の高速道路のスタンドでは数十台のEVが列を作ることになることは確実だからだ。日本でも10%を超える普及率になれば、年末年始の高速道路の充電スタンドには長蛇の列ができることになるだろう。極寒の時期にはバッテリーの化学反応が鈍くなるので、中国のモンゴルに近い極寒の地域でテスラを始めとした様々なメーカーのEVで実験をしたときには、メーカー発表の走行距離の半分しか走れないという実験結果もある。日本でも真冬の夜ともなれば、走行距離は半分とまでは行かなくとも、大幅に減ることは間違いないし、充電時間も長くなることは確実なのだ。 欧米の為政者たちは、2035年頃にEVの普及率を80%位をイメージしているようなのだが、そんなことは現実に可能なのか。馬鹿なマスコミは、そう遠くない未来に自動車は全てEV化すると断言し、トヨタとテスラの地位が逆転するのはそう遠くないなどと寝ぼけたことを言っているが…。 マスコミに従事している者の殆どが文系なので、科学的なものには疎い。このために原発事故の時も馬鹿としか言いようのないことを盛んに言ったり書いたりしていたが、EVというのは科学そのものなのに、マスコミに従事している者の殆どは科学的な知識が無い。だから、ありえないようなことをあたりまえのように言うのだ。 EVが普及すれば普及するほど、上記のようなことが日常的に起こるようになることはよほどの馬鹿以外は容易に想像がつくことでもあるのだが、世界の馬鹿なマスコミには上記のようなことは想像すらもできないことのようなのだ。 それなら充電スタンドをどんどん作ったら良いと言うだろうが、充電スタンドを設置するには巨額の費用がかかることはすでに述べた。 日本はEVの普及率が1%程度なので、中国のようなことは起きていないが、5%も普及したら中国で起きているようなことが日本でも起きるのは確実だ。 さらに問題なのは寒冷地だ。ガソリンやディーゼルエンジンの自動車は、暖房にエンジンから発生した熱をそのまま使用している。これは航空機も同じだ。しかしEVでは、暖房もEVの電池に頼っているので、冬の電費はとても悪くなる。しかも電池は寒くても暑くても性能が下がるので、使用環境によってはバッテリーの性能、つまり走行距離に大変な影響が出ることになる。秋には問題なく走ることができた山道を、冬の山の中でバッテリーが無くなったらどうするのか。これは命に関わる問題だ。EVは50Kwほどの電力をバッテリーにため込んでいるのだが、50リッターのガソリン車の場合は電力に換算すると、500Kwものエネルギーを積んでいることになる。この差は、あまりにも大きい。もちろん、ガソリン車のガソリンの全てがエネルギーに変わるわけでは無いが、効率が3分の2程だとしても、その差は桁違いだ。 トヨタの「ランドクルーザー」は、「信頼性」「耐久性」「悪路走破性」という3つの卓越した性能を磨き上げたクルマだとされている。「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」クルマという「ランドクルーザー」の使命を全うするため、全方位でバージョンアップが図られているのだが、もし、これをEVにしたら、ランドクルーザーの特徴である「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」クルマとは言えなくなってしまうだろう。 中東やアフリカの砂漠で、人家も何も無い舗装もされていない悪路。1日走っても人家も何も無い原野が延々と続くと言ったところをEV車で走れるか、となったら、大きな疑問を抱かざるを得ない。 バッテリーというものは、化学変化によって起電力を得ているものなので、暑さにも寒さにも弱いものだし、ガソリン車やディーゼル車のように簡単に燃料を補充できないものだからだ。 ランドクルーザーの安心を支えているのが、耐久性の高いディーゼルエンジンなのだ。 さらに、リチウムイオン電池の主原料の価格が、2020年後半の約9倍になっている。まだ、日本では1%弱。最も普及しているヨーロッパでも10%弱。中国を馬鹿なマスコミは盛んに取り上げているが、それでもEVは2020年の時点で4.4%しか普及していないのにだ。 この程度のEVの普及率で、コバルトやリチウムといった原材料価格が暴騰している。 コバルトは、起電力が下がると言うことを我慢すれば使用量を抑えることが可能だが、リチウムはリチウムイオン電池では使用量を抑えることなどできない。 原材料価格が上がっているのは、リチウムの採れる国が極めて偏っているからで、南米のチリ、アルゼンチン、ボリビア、アジアでは中国、それにオーストラリアで殆どという状態だからだ。 現在の産出量はオーストラリアがダントツだが、南米が最も多くの埋蔵量があるとされている。しかも、資源があるのならそこからどんどん採掘すれば良いという単純なものでも無い。リチウムを含有する鉱石からリチウムを取り出した後に大量の残滓がでるのだが、これが有毒だと言うことから環境破壊や環境が汚染されるという住民の反対があるために、採掘そのものが簡単ではないからだ。 そうした様々な困難がある中で、産出国に世界の自動車メーカーが殺到したら、リチウムの価格はさらに際限なく上がっていくことだろう。普通の工業製品は、大量生産することによって価格は下がってくるものなのだが、EVに関してはリチウムなどのレアメタルを大量に使っているために、その原材料の高騰という軛によって、EVの価格が上がることはあっても下がることは期待できないのだ。 とにかく、現在産出しているリチウムの全てをEVに振り向けたとしても、200万台しかまかなえないと言われている。世界で年間販売されている自動車の数は、おおよそ1億台だというのにだ。2030年や2035年にエンジン車の生産を止めるなどと言うことがいかに荒唐無稽な話しかが、このことでもわかるはず。 もちろん、リチウムを始めとしたレアメタルを全く使わないでリチウムイオン電池に勝る電力を蓄えることができるという画期的なバッテリーが開発され、商品化されれば別だが、それは遙かな遠い未来の話しだ。 バッテリーに関連して、価格が暴騰しているものは他にもある。六フッ化リン酸リチウムだ。これはリチウムイオン電池の電解液を構成する主要な電解質なのだが、この価格が2021年の初頭では約1700円/kg程であったのに、現在では供給が逼迫して約1万円/kg前後に暴騰している。 まだEVは1%から普及しているとされているヨーロッパでも10%そこそこの普及率でしかないというのに、こんな状態なのだ。愚かなマスコミが言うように、近いうちにEVが自動車の全てになるなどと言うような勢いでEVが急速に普及すれば、この価格は際限なく上がり続けることになるだろう。 そして、マスコミの言うことがいかにいい加減ででたらめかは、こうした現実からもわかろうというものだ。 いくらマスコミが夢を語ったとしても、その夢を現実化するだけの原材料がないと言う厳しい現実がある。 さらに大きな問題は、リチウムイオン電池の廃棄問題だ。 2030年には、年間で150万トンから600万トンものリチウムイオン電池のセルが廃棄されると予測されている。 しかも、リチウムイオン電池の廃棄自体が簡単では無い。電気が残った状態のものを放電させないまま破砕すると、電池が短絡して火災になる危険性が高まる。そのうえに焼却もできない。リチウムイオン電池の電解液に含まれる六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)が熱分解して強い毒性がある五フッ化リン(PF5)が発生するからだ。しかも、五フッ化リンは水とも激しく反応してきわめて有害なフッ化水素ガスも生じさせる。 EVの普及の開始が早かった中国では、すでに役目を終えたリチウムイオン電池が年間10万トンを超えてきていて、大量の使われなくなった電気自動車が至る所で放置されたりして社会的な大問題になりつつあるのだ。 今はまだ廃棄の量が10万トン単位なのでそれほど目立った状況には無いが、これが100万トン単位になってきたら大変なことになるだろう。もちろん、使用済みの電池を処理工場できちんと処理すれば良いのだが、それには当然高額な処理費用がかかることになる。そうなると、今でも家電や建築廃材などを川や空き地に捨てる馬鹿者がいるわけで、数百万トンの寿命の来たリチウムイオン電池が毎年でてくると言うことになったら、悪質な業者が山の中や川などに大量に捨てるといったとんでもないことが起きる可能性が極めて高いことが予想される。 家電や建築廃材などとリチウムイオン電池が決定的に違うのは、リチウムイオン電池は極めて毒性の強い物質でできているということなのだ。こんな毒性の強いものを、山中や川に大量に捨てたりしたらとんでもないことになる。 しかも、日本という経済を別にしたら典型的な途上国では、高度経済成長期の頃から山野に廃棄物を大量に捨てると言うことが問題になってきた。廃棄物を山野に捨てられたら、川が汚水で汚染され、川下の農家は大変な被害に遭うし、家が近くにあった場合には重機による騒音や臭い、それに細かな廃棄物のかけらが家々の庭や洗濯物にくっつくと言うことから行政や政権政党に被害を訴えると言うことが続いてきた。所が、政権政党の議員どもは、こうした深刻な問題に全くと言って良いほどに対処をしてこなかった。産廃などを捨てても良いが、近隣に迷惑をかけるようなことがあれば厳罰に対処する、と言う法律を作ってくれたら良いのだが、全くそうした効果的な対処をしようというそぶりも見せない政府。しかも、全国至る所で建築廃材等のゴミを山野に捨てると言うことが未だに横行しているのに何の対処もしてくれない政治屋たちを、圧倒的多数の愚かな民衆は選挙の度に支持をし続けてきたのだ。 ただ同然の山野に、建築廃材などの高い処理費用を前提にした物を高額で受け取ってきては放置する。本来高額な処理費用のかかる物を山野に放置するだけなので、莫大な金銭が懐に入るのだ。そして最終的には国民から集めた税金によって処理されることになる。ゴミを放置した者どもに処理のための費用を請求しても、破産宣告などを受けることで費用を払わないで済むようにする。 こうしたでたらめとしか言いようのないことが数十年にもわたって続けられてきたのだが、悪党にとってはこんなうまい話はないわけで、これからもこうした莫大な利益を生むことがわかっていることを悪賢い者どもは続けるだろう。将来、大量に使用済みのリチウムイオン電池が出てくることになれば、当然のことながら全国至る所の山野に使用済みの電池が積み上げられるという光景が続出することは火を見るよりも明らかなことだ。 これまでも廃棄物が積み上げられたところの周辺に住んでいる人々は、マスコミなどの取材陣が訪れると、臭いが酷いとかゴミが風に乗って飛んできて洗濯物も干せないなどと不満をぶちまけるが、選挙になれば何もしてくれない無能な議員に間違いなく投票する。これがこの国の哀しい現実なのだ。愚かさが悲惨な結果を生むわけで、馬鹿が馬鹿を見るの喩えそのままとしか言いようがない。 EU域内では、2040年に廃棄されたり、車輌の電池の入れ替えによって回収された電池の量は230万トンほどになるとしている。これはリチウムイオン電池全体の17%と見積もられているのだが、これだけの膨大な廃棄物の処理が問題も無くできるのか。日本のような無能な政治屋ばかりの国と違って、EUでは山野に廃棄物を放置するなどと言うことをしたら、すぐに警察に捕まるのでできないだろうが、プラスチックのように、多額の処理費用を受け取った悪質な業者が、アジアやアフリカの途上国に有用な物として輸出するといったことをやるのは目に見えている。 実際に、中国では使われなくなったEVが大量に放置されていると言った形で、その傾向がはっきりと形になって現れ始めているのだ。 しかも、リチウムイオン電池の廃棄物処理がきちんと行われたとしても、現状では銅やコバルトと言った金属類の回収が行われるだけで、リチウムは回収されない。 一般的な乾式精錬では材料の溶融時に珪石や石英を溶媒として添加するために、スラグに多量のシリカが含まれてしまい、リチウムの含有量が非常に少なくなってしまう上にシリコンの比率が高いとV焼して結晶のタイプを変換しない限り、酸でリチウムを溶かしだすことができないためだ。 さらにさらに、リチウムイオン電池と言うものは、発火の問題を抱えている。事故などの際に、ガソリン車なら壊れたところを修理するだけで済むが、EVはいったん事故によってバッテリーが傷つき発火し始めると、短時間で消すことは殆ど不可能に近い。数個のセルが壊れたことで発火が始まると、次から次にと発火が連鎖していく為なのだ。結局車体が完全に燃え尽きるまで火は消えない。その間消防車は水をかけ続けることになるので、とんでもない量の水を長時間にわたってかけ続けることになってしまう。 アメリカのテキサス州でテスラ車が木にぶつかった事故では、午後9時半に消防隊が到着して消火に当たったが、普通の自動車では数分で消し止めることができるのに、この事故の場合は火が消えたのは0時15分だった。水だけでは消えないと言うことから、10時15分に大型の粉末消火器を使って消火をしたが効果は無かった。今度は車体をクレーンでつり上げて、バッテリーのある車体の下部から水をかけてようやく消し止めることができた。結局、3時間近くも燃え続けたことになる。 2018年3月23日にアメリカ、カリフォルニアの国道101号でテスラ車が中央分離帯に衝突して燃え上がった事故では、国道101号線の6車線が6時間も閉鎖された。 ヨーロッパでは、EVが普及してきているために事故でEVが燃えるということが珍しくなくなった。事故でEVが発火を始めると、道路を封鎖して長時間大量の水をかけ続けるのはあまりにも大変だと言うことなのだろう。ヨーロッパでは、EV用の消火設備を作った。これは巨大な箱に水をためておいて、EVが発火したという通報を受けると、駆けつけてEV全体を水の入った箱にクレーン車でつり上げて水の中に浸けてしまうのだ。 これが一番簡単で確実な消火方法だと言うことから、この消火方法が普及し始めていると言うことなのだが、EVというのは電気の塊のようなものだ。それを水のたまった巨大な箱に浸けてしまったら、完璧に廃車だ。 EVというのは、安くても400万円ほどもする。高いものは1000万円をはるかに超えるものも少なくない。そんな高額な自動車が、ちょっとした事故で発火したからといって水に浸けられて廃車になってしまったら、ショックは大きいだろう。そうした大きなショックを受けた直後に自動車は必要だと言うことになったとして、そのような経験をした人が生きていたとして、また新たにEV車を買いたいと思うだろうか。 韓国や中国のEVは、バッテリーが燃えやすいとも言われている。韓国の現代自動車のEVは、いったん発火すると数秒で火がクルマ全体に回るので、韓国ではEVを走る棺桶と呼んでいるそうだ。バッテリーはEVの車体の下部全体に設置されているために、床下全体が重いバッテリーで覆われていることで、車体の重心が下に来ることから、安定した走行が可能になる。所が、リチウムイオン電池はとても燃えやすいものでもあるので、床全体に可燃物を敷きつめた状態になっていることから、これが事故によって傷つき発火すると一瞬で自動車全体が火に包まれてしまうのだ。 事故を起こしてうろたえている間に、床全体から800度を超える熱が吹き上がってくるのだから、生き残るのは極めて困難なことだろう。 日本では、バッテリーが多少傷がついても発火しないようにバッテリーに衝撃を加えたり、釘を打つという過酷で厳重な検査態勢が設けられているが、そんなことをしたら当然価格は高めになると言うことから、中国や韓国では検査態勢が甘くなっているために当初から発火事故は多かったのだ。 韓国消防庁の統計によると、2017年から2022年までにEVの火災は計45件発生している。EV火災の主な要因として、バッテリーの熱暴走現象が起きた結果とされている。 熱暴走とはバッテリーが外部からの強い衝撃を受けて損傷したことで、瞬く間に通常温度から、800℃以上にまで急騰する現象のことを指すのだが、日本で製造されたバッテリーは熱暴走が起きないような対策を施しているとされている。だからだろうが、日本でEVが発火して自動車が丸焼けになったという話は聞かない。 しかしながら、日本のEVは検査が厳重なので発火はしにくいとは言われているが、絶対に大丈夫とは言えないだろう。テスラは、パナソニック製のバッテリーを使っていると言われているが、現実に燃えているからだ。もちろん、韓国のとても燃えやすいと言われていることで有名なEVを日本国内でも購入している人がいるので、そのうちに日本でも丸焼けになったEVがニュースなどで放送されることになるのだろう。 中国では格安のEVを手に入れた人が、購入から3年後のバッテリー交換費用が4万元(約82万円)となり、車の価格7万元(約144万円)の半分以上になったということもあって問題になっているようなのだが、EVの優位性を挙げている者は決して言いたがらない極めて重大な不都合な真実がある。 日本でも中国の格安なEVをマスコミが取り上げたことから、中国製の格安EVを購入している人や企業がいるようだが、バッテリーは数年でだめになり、交換しないと行けなくなると言うことを理解しているのだろうか? 1000万円ほどもするEVを買える人なら、数年でバッテリーの交換に200万円ほどかかると言われてもたいして気にもとめないかも知れないが、140万円ほどの低価格車で数年おきにバッテリーの交換のために80万を超える費用がかかることを知ったなら、大変ショックなのではないだろうか。 まだまだ、数え上げていったら切りが無いほどだが、最後に電磁鋼板の問題を指摘しておきたい。電磁鋼板はモーターの主原料で、この部材の善し悪しでモーターの性能が大幅に変わってしまう。EVにとっては極めて重要なものだが、作れる製鉄企業は限られているだけでは無く、その企業のあるところが限られている。 ヨーロッパの無知な政治屋は、こうした極めて重要なことを知らないのだ。EVに必須なモーターを構成する電磁鋼板が無ければ、EVなんてタダの箱だ。その電磁鋼板を作れる企業があるのが中国と日本、それに韓国に限られていて、この3国で9割近くを占めている。蛇足ではあるが、この構成国から容易に想像がつくのは、日本から技術を盗むことを得意にしている国がしっかりと顔を並べていることだ。 閑話休題、欧米にも製鉄を行っている企業はいくらでもあるが、電磁鋼板を作れる企業はごくわずかしか存在しないのだ。 電磁鋼板をモーターに使えるように加工する会社も極めて限られているし、規模が小さい会社ばかりなので急に生産量を増やせと言っても無理だ。 調査会社の米S&P Global(S&Pグローバル)の自動車部門では、電磁鋼板の供給が、25年以降に不足する可能性を指摘し、同社の試算では、不足量が27年に35万t超、30年には90万t超に達する恐れがあるという。 これに関連したこととしては、高性能のモーターに使われる永久磁石の問題がある。EVを駆動するモーターにはネオジム磁石という高性能の永久磁石が使われているのだが、このネオジム(Nd)が希少金属なのだ。しかも、その殆どが中国で産出されている。このネオジムを使わないでネオジム磁石に匹敵する高性能の永久磁石を作れないかと言うことで、世界中で研究がなされているが容易ではない。 こうした様々な困難があるのに、わずか10年やそこいらで欧米ではエンジン車を止めてEV以外の自動車の販売を禁止にするなどということを現実に行ったら、今の半導体不足で納車が半年遅れなどと言うものとは桁違いの状況が生まれることは確実だ。 自動車を買いたいと言って販売店を訪れても、納期はいつになるかは言えないという返答が帰ってくることになる。そうなったら、新車がだめというのなら中古のハイブリット車をアジアから輸入するという業者が現れることは確実だ。 要するに、無知な政治屋が何も知らないで夢を語ってはいるのだが、現実には技術やバッテリーの材料などが足りないという事態になって、実現するはずが無い。 もちろん、遙かな未来にはEVやFCVが殆どという時代が実現するかも知れないが、我々が生きている近未来には無理だと言うことなのだ。全固体電池はずいぶん前から完成間近と言われながら、製品化の予測はどんどん先に伸びて行ってしまっている。この理由は電池の充放電を繰り返すと負極活物質などが膨張収縮を繰り返すことで、固体電解質との間に隙間ができてしまうことにある。隙間ができれば、そこに大きな抵抗ができることになり、電池としての性能は急激に落ちるからだ。さらに、ポリマー電池なども超えがたい問題を抱えたままだ。 トヨタの社長が言っていたことだが、問題なのは炭素なのであってエンジンではない。確かにその通りで、エンジンを水素で動かすと言うことであれば脱炭素に沿うことになる。しかも、エンジン車の製造の方がEVを作るよりはるかに安くできることは、今現在そうした自動車がたくさん世界中で走っているのだから証明済みだ。エンジン車なら100万円台で十分快適な自動車が作れるし、そうしたクルマを買って乗っている人は世界中にいくらでもいる。そうした100万円台なら買えるが、400万円以上の自動車を買うのは無理だという人は、今100万円台のクルマに乗っている人の殆どがそうだろう。 先日、テレビの報道番組で、インドでの街頭インタビューを行っていたのだが、そこで外国製の高級車を購入した、と自慢げに話していた人がいた。外国製の高級車と言うことはベンツかBMWかと思いきや、その価格は200万円ほどなのだという。インドでは200万円もする外車は高級車なのだ。インドに限らず東南アジア諸国では、殆どの人が10年、20年後もEVではなく、水素燃料で走る普及価格帯のエンジン車を選ぶに相違ない。また、EVだけではなくFCVも普及するはずなので、FCVは水素で動く自動車なのだから水素スタンドも増え続けるはずで、そうしたところで水素で動くエンジン車を持っている人は、燃料を補給すれば良いのだから10年後にはエンジン車がなくなるとか、エンジン車を買う者がいなくなる、などと戯けたことを言っている者がいるが、そんなことがあり得るはずが無いのだ。特に、寒冷地では寒さに弱いというバッテリーの弱点を考えたらエンジン車は数十年単位では無くならないだろう。言うまでも無いことだが、エンジン車なら寒い土地でも何も気にせずに真冬の長距離走行の際に暖房を付けて暖まることができるが、EVでは暖房は控えめにして寒さに震えながら乗っていなければならない。しかも、EVの方がはるかに購入金額は高額なのだ。 最後に強調しておきたいのは、現在普及しているリチウムイオン電池以外の電池が開発されたとしても、現状ではその材料の殆どがリチウム、ニッケル、コバルトと言ったレアメタルが主成分なのだ。レアメタルを日本語で表記すると希少金属となるが、希少で採掘量が極めて少ない金属。こうしたレアメタルを大量に使わなければならない自動車が世界の殆どのシェアを確保するなどと言うことは、夢の世界と現実との区別のつかない人でないと、現実的とは思わないだろう。 レアメタルを大量に使わないで、リチウムイオン電池と同等か、リチウムイオン電池を超えるような能力を持った電池が開発されるのはいつのことなのか。早くても今の若者が老人になる頃、今世紀の後半なのでは無いだろうか。もしかしたら、永久にそのような電池は出てこない可能性もある。 数十年後には、EVよりもFCVが大きく発展することで、EVは忘れられる可能性もある。なぜなら、エンジン車が燃料をガソリンから水素に変えて走り続ける可能性が高いからだ。 FCVや水素エンジン車は、重い電池が要らない。EVでは重いバッテリーが必要だが、水素は軽いし、水素吸蔵合金を使った場合には10Kg以下でしかない。既に水素吸蔵合金のモジュールを交換するという方式が世界で始まっていて、モジュールの統一化も図られつつあるが、この方法だと簡単にモジュールを交換できるので、バッテリーの充電のように長時間待つ必要が全くない。 EVで長距離輸送のトラックが普及することはあり得ない。充電にとんでもない時間がかかるからだが、FCVでモジュールを交換するのなら今のディーゼルエンジンよりも走行のためのエネルギーの補充は簡単で済む。 普通に水素を充填する場合でもFCVはガソリン車と変わらない時間でできるし、FCVの方が燃料の効率という観点からは、水素エンジンより効率が良い。ただし、FCVの方が比較にならないほどに高くつくのでどちらが良いかは人それぞれだろう。 さらにEVにとって、重大な問題を抱えたものがある。銅などの鉱物資源だ。銅は電線などに使われているありふれた金属なので、いくらでも無尽蔵にあると思いがちだが、銅は採掘される量がリチウム程ではないが極めて少ない金属だ。銅の鉱石は、鉄鉱石の1.4%しか産出しないのだ。 EVはモーターを動力源としているのだが、モーターはたくさんの銅などの希少な金属類を使う。エンジンは鉄やアルミと言った殆ど無尽蔵にある金属を使っているのだが、EVのモーターは強力なネオジムを使った永久磁石が使われるし、レアメタルや銅などの希少な金属類が使われている。当然のことながら、風力発電に使われている発電機もモーターと原理は同じなので、同じような資源を必要とする。もし、EVのシェアが100%近いと言うことになった場合、モーターや風力発電機に使われる鉱物資源の奪い合いになり、EVの価格は限りなく暴騰していくことだろう。いや、EVだけではない。家やビルを建てるには内部にたくさんの電線を張り巡らせなければならないのだが、その電線が手に入らなくなると言うことも十分すぎるほどにあり得るのだ。さらには、エアコンが作れない。冷蔵庫もだめだ、と言うことにもなりかねない。そうした状況では、銅などの鉱物資源がないのにどうやってEVを作るのかということにもなってくる。しかも、今でさえ銅は足りないと言うことから価格は天井知らずに上がり続けているのだ。EVのシェアが増えれば増えるほど銅の価格は暴騰するだろう。欧米の政治家はEVのシェアを10年ほどで80%位に持って行きたいと意気込んでいるが、世界で販売される自動車の数は1億台弱だが、その80%と言うことは、世界の自動車メーカーが合わせて8000万台ものEVを生産することになる。だが、そんな膨大なEVの生産をまかなうほどの銅などの鉱物を産出する鉱山を、10年や20年で開発できるはずもないのだ。 銅は精錬の際に毒を排出することから、銅の産出国には反対も多いという問題を抱えている。40歳以上の人であれば知っているはずだが、日本での足尾銅山の鉱毒事件は有名だ。1980年代まで足尾銅山の精錬は行われ、新聞や報道番組などで度々足尾銅山の鉱毒事件をとりあげていたからだ。 足尾銅山の鉱毒事件では、群馬県の渡良瀬川流域に銅山からの鉱毒が流され、流域の人々は塗炭の苦しみを味わった。銅鉱山からの排煙によって周辺の山々は全て植物が枯れてしまい、渡良瀬川から取水して農業を営んでいる人々は稲が枯れてしまい、生活が成り立たなくなってしまった。銅の鉱石には銅以外に鉛やカドミウムと言った重金属を含んでいるのだが、こうした不純物の除去を行う際に熱処理で生じた煙や洗浄の際の排水に含まれた重金属によって植物は枯れ、人々の健康は損なわれると言った事態が発生したのだ。 このような鉱山周辺の住民や渡良瀬川流域に住んでいる住民の被害の訴えに対して、日本政府は徹底的に無視と弾圧で応じた。住民の被害より日本経済を支える銅の生産の方が重要だと当時の日本政府の首脳は考えたからだが、現在最も銅の生産量が多い国であるチリは、かつての日本政府と同じような対応を取っている可能性が高い。当然、国民の意識の中には銅鉱山イコール悪というイメージが醸成されているために、銅の新鉱山をとなると反対の声が湧き上がる。 こうしたことがあるために、新たな銅鉱山を開発するのは容易ではないのだ。 そして、こうしたリチウムや銅などの金属類が足りないことの全てが、EVの価格を押し上げる要素でもある。 EVは、普及すればするほど価格が上昇するという宿命を持った乗り物でもあることが、こうしたことからもわかるのだ。これらは、結果的に馬鹿なマスコミや政治屋が言うほどにはEVは普及しないと言うことを示唆している。 20世紀の初めに自動車が最初に登場した頃にはEVが注目を集め普及したのだが、エンジン車が普及するとEVは忘れられていった。歴史は繰り返すと言うが、今回もEVに同じ運命が訪れる可能性は否定できない。 EVの問題点とは直接関係が無いのだが、そもそも先進国の政治家たちがなんのためにEVという課題の多い自動車を普及させ、将来的にはエンジン車と置き換えようとするのかと言えば、EVは環境問題という観点からは二酸化炭素を走行中に全く出さないクリーンな自動車だから、と言うことがあるからだろう。EVは二酸化炭素を出さないと言うのがEVの普及を声高に叫んでいる人たちの共通の意識であり、考えだからだ。所が、EVが1kW当たり何グラムの二酸化炭素を出すのかを見てみると、日本はインド、中国に続いてワースト3位。中国と日本、それに米国ではハイブリッド車の方がEVよりも二酸化炭素の排出量が少ないという結果になっている。要するに、EVはバッテリーを製造するときに大量の二酸化炭素を出す上に、日本では石炭火力や天然ガスによって発電された電力が殆どなので、日本でEVをたくさん走らせてもクリーンな自動車とはならないのだ。 愚かなマスコミは、中国はEVの普及がすごいと言うが、そのEVを動かしている電気は何によって発電されたのを考えていない。 中国は太陽光発電も風力発電も日本とは桁違いに多いのだが、人口が日本の10倍以上という国でもあるために、それだけ多くの人が電力を必要としているのだ。14億人もの人々が1人残らず電力を自分が必要な量を確実に供給してもらわないと行けない。日に何時間などと言うことではだめなのであって、24時間いつでも電力を使いたいときに使わせてくれないと困る、と全ての中国人は思っている。このために日本とは桁違いの膨大な電力が必要となるわけで、結果的に日本よりも効率の良くない石炭火力発電による電力が過半数以上という状態になっている国でもあるのだ。 中国が世界の二酸化炭素排出量のダントツでトップだと言うことの意味を理解できないマスコミ関係者が、なぜこれほどまでに多いのかが不思議としか言いようがない。まさに、木を見て森を見ない人のなんと多いことか。 気候変動の会議などでも、世界で最も多くの二酸化炭素を排出しているのは中国だと言われ続けているのに、中国は日本とは比較にならない大規模な太陽光発電が行われているだの風力発電がすごいだのと言って中国を賛美しているが、こうしたおつむがお花畑状態の人間は、中国の二酸化炭素排出量が世界的に見てどのくらいのレベルなのか、などといったことには何の関心もないらしい。 経済産業省は二酸化炭素を減らすために、2030年には今よりも総電力量を10%減らすと言っているのだが、これは2030年の温室効果ガス削減目標「2030年に2013年比で46%減」に合わせるためと思われる。しかしながら、こうしたことは電力量を減らしながら自動車は全てEVにすると言っていることになる。 日本では殆どの電力が石炭や天然ガスによる発電なので、2030年の温暖化対策の目標値を達成するためには火力発電を廃止していかなければならないということから、10%位の発電量が減るのはしかたがないということなのだろう。 菅が総理の時に、2035年にエンジン車の製造販売を止めると明言していたのだが、多分自民党内では時の総裁が決めたことなので実行するつもりで居るのだろう。しかし、経済産業省が電力の発電量を2030年に10%も減らすと言っている。役人も政治屋たちもEVというのは一般家庭の数日分の電力をバッテリーに蓄えていて、それを1日もしないうちに使いきってしまうものなのだと言うことを理解していないらしい。 もし、本気で10年やそこいらでエンジン車の製造を止めてEVに切り替えると思っているのなら、今から大車輪で日本中至る所で風力発電や太陽光発電などの温暖化ガスを排出しない発電設備の大規模な設置計画をしなければ間に合わないのだが、自民党も電力業界にもそんな気配はどこにも感じられない。 日本全体の総発電量を減らすという計画を立てておきながら、自動車を全て電気で走る物に変えるなどと言うことはものすごい矛盾で、論理的に成り立たないのだが、政治家も役人たちもみんなこうした極めて重大なことを理解する頭が無いのか、それとも口先だけで、欧米が言っているので日本でも言ってみた、のいずれかであることは確実だ。 日本だけで考えても、今走っている自動車を全てEVにしたと仮定した場合、専門家の試算では年間の電力総使用量は50億kWhも増加することになるのだという。これは、1MW級の風力発電(設備利用率が25%、年間発電量が219万kWh)の風車が2280基も必要な量になるのだが、これほどの膨大な電力をどうやって工面するつもりなのか、と言うことになるからだ。今でさえも夏と冬には電力が足りないと言って、電力の使用制限を訴えているという状態なのにだ。 こうしたことは日本だけの問題では無い。欧米各国全てに言えることなのだが、殆どの自動車をEVにするにはクリーンな電力を大規模に得なければならないと言う基本的な大問題については、世界の政治屋たちは故意に意識から遠ざけているようなのだ。 これも直接EVとは関係ないのだが、EVが社会に及ぼす大きなものとしては、半導体不足がある。無知なマスコミは、半導体というものは皆同じだと思っているようなのだが、だから、4ナノだとか3ナノだなどと言うことを盛んに言うが、こうしたものは主にディジタル用の半導体のことなのだ。所が、マスコミは皆無知なので、ディジタル用の半導体イコール半導体だと思っているのが殆どだ。だから、日本の半導体はないに等しいだの、日本の半導体は負け続け、今や風前の灯火だなどというのだ。しかし、半導体と言っても様々なものがあるに決まっている。確かに、ディジタル用の半導体はコストと技術面で欧米や韓国と比べて遅れてしまった感はあるが、半導体にはアナログ用のものがあって、様々な用途に使われている。特に、EVは半導体の使用率がとても高いのだが、アナログ用の半導体が多数使われている。 自動車用の半導体は、最先端である必要は無い。むしろ、長年使われてきて不具合が発生していない安定性の高いものが求められている。言うまでも無いことだが、走行中にエンジンをコントロールしているような半導体が壊れたら、乗っている人の命に関わることになるからで、最先端の微細加工されたものよりも安価で安定性が高いものが求められるのだが、こうした半導体が全く足りないという状態が何年も続いている。特に、EVで大量に半導体が使われるようになった煽りを受けて、エンジン車の半導体も足りない状態になり、SUVのなかには受注を止めるものまで出ているという状態だが、こうした半導体の多くが日本で生産されているのだ。大地震の時に、茨城県にあるルネサンスという会社の操業が止まったことで、世界中の自動車メーカーがパニック状態になったことを、並の頭を持った人なら知っているはず。昨年には、フォード社が半導体の供給に応えてくれないといって、ルネサンスを名指しで非難したこともあった。 さらに最近になって日本の半導体不足に追い打ちをかけたのが、21年3月に発生したルネサスエレクトロニクスの工場火災だ。この事故で、ただでも足りていない半導体が、たいへんな逼迫状態になってしまった。この火事では工場の1部が焼けただけだったが、まるで工場全体が燃えて無くなったかのような騒ぎになった。 このような半導体不足が続いていることから、中国では中古チップや廃棄した製品から入手した再生チップ、使用期限や保管状態に問題があったチップなど「グレーな」再生品やB級品が数多く流通しているという。 さらに、中国では「ニセモノの半導体」をめぐるトラブルも多発している。要求仕様と異なる中身の半導体を渡されたり、中古品を「新品」と偽って販売したり、廃棄すべき半導体を流通させたりするケースが少なくない。真贋判定を手掛けるOKIエンジニアリングによると、21年8月までに調査した半導体の約3割が不正品だったという。 今後EVの普及が加速度的に進めば、自動車用の半導体だけではなく、家電からゲーム機に至るまで様々な機器の半導体の不足が深刻になることは目に見えている。馬鹿なマスコミは何も知らないで、日本を貶めるようなことばかりを言っているが、例えば、パワー用の半導体は電車から家電、スマホやパソコンに至るまで電気で動いているものの全ての制御に必要なものなので、殆どの電気製品に必須なものなのだ。それなのに製造が足りていないし、システムを制御するような半導体も製造が間に合わないという状態が続いている上に、当分解決のめどが立たないという状況だ。 これまで自動車メーカーの下請けとして低価格で半導体を作っていて、いくら作っても儲からないとぼやき続けていた会社が、ここぞとばかりに半導体の大幅値上げを要求し、値上げを自動車メーカーに飲ませているのだが、こうしたことも大量に半導体を使うEVの価格上昇に反映してくることは言うまでも無い。 日本には驚くほどたくさんの半導体を製造している会社があるのだが、こうした会社が何を作っているかなんてマスコミの殆どは知らないのだろう。政治屋もアナログ用の半導体に対しては無関心だが、欧米のような政治的な支援をしないとEVと他の電気製品との取り合いになり、あれも半導体がないので作れない。これもだめと言うことにもなりかねない。 欧米の政治屋たちがエンジン車の製造販売を止めると言っている2030〜35年になったときに、充電ステーションも2次電池も画期的なものが出来上がったと仮定して、価格は今のハイブリッド車並みになっていると思っているのだろうか。私は、それはあり得ないと思っている。理由は上記で述べた。 EVが今のような高価格のまま2035年になり、補助金はなく(日本のEV購入の補助金は2025年に、中国では2026年に終了予定)、優遇措置もない。EVが普及すればするほど一般車化するだけではない。高額な補助金が財政の負担になるから、普及すればするほど優遇措置の恩恵を受ける可能性は低くなるのだが、そうした状況で、果たして自動車を求める人たちはEVを選択すると思うだろうか。もちろん、お金がいくらでもあるという富裕層は買うだろうが、一般人がハイブリッドでは無くEVを選択する可能性は極めて低いと思われる。補助金があったうえで、それでも最も低価格なものでさえ400万円もする自動車なのだ。補助金が無くなったら、500万円を超えることになるだろうが、こんな高額な自動車を好んで買いたいと思うのは、限られた人に決まっているからだ。 北欧の1部の国ではエンジン車に重税をかけて、EVには税金をかけないということをしているが、このようなことをすればEVが普及するだろう。でも、そんなことを容認する国民は世界的な観点からは極めて僅かしかいないはずだ。 走行距離の短い軽自動車なら、200万円前後でEVを買えるかも知れないが、充電スタンドのあるところを絶えず気にしながら走らなければならないようなクルマを、あえてほしいと思う人は極めて限られるはず。日本で初めて発売されたi-MiEVは、160Kmの走行距離だったが極めて売れ行きが悪かった。160Kmと言ったところで、実際に走れる距離は100Km位でしかなかったのと、軽自動車なのに登録者よりも価格が高いのでは買う気にはなれなかったものと思われる。 充電スタンドを気にせずに走れるのには、500Km以上を走れるということでないとだめなのだが、こうしたクルマでも冷房や暖房を入れて高速道路を走ったら一気に走行距離は縮む。さらに、厳冬期ともなれば、EVによっても違うが公称値が500Kmでも実際に走れるのは350Kmくらいということも十分にあり得る。だからこそ、安心して乗っていられるのには最低でも500Km以上の走行距離は必要なのだが、そうしたEVはバッテリーをたくさん積むので、どうしても500万円以上はしてしまうのだ。 ![]() 話がおもしろい、または、ためになったと思われた方は下の画像をクリックしてください。 勿論、購入するかどうかはあなたの判断です。 |