清貧の思想3(本阿弥光甫)




2020.10.18.


 本阿弥の家は、足利尊氏の頃から刀の目利き、研ぎ、磨きを家業にしていた家柄だったが、その家業の心得の上でも妙秀や光悦の倫理感は継承され続けていた。
 光悦の孫である空中斎光甫が江戸に滞在中、松平安芸守の屋敷に呼ばれていくと、今田四郎左衛門という人が錆刀をとりだして、
「国元よりこれを代金二両で払ってくれと頼んできた故、方々へ見せたけれども、望む者も無く、これでは買い手もつくまい。そなたの手でどこぞへ払ってはくれぬか。」
 そこで光甫が刀を見ると、銘も無く、錆びて見る影も無くなっているものの刀はまさしく正宗であった。そこで光甫はこう言った。
「よそへ出すにも及びませぬ。払うと仰せられるならいかほど高値にても我らが引き取りましょう。が、後で後悔めさるるな。」
 これを聞いた重臣たちが、
「さてさて、そのほう、その刀が殊の外気に入った顔つきであるな。してこの刀いったい何であるか。」
 と、口々に尋ねるので、光甫は正宗に間違いありませぬと断定すると、意外な成り行きに一同は大いに驚いた。
 光甫はその刀を預かって京に帰り、研ぎ上げてみると刀は真価を輝かし、見れば見るほどよい刀になった。当時一族の長だった光温(こうおん)に見て貰うと、正宗という光甫の判断に間違いは無い。そこで光温は判金二百五十枚という切り紙を着け、さらに正宗という象眼を入れた。この時代、本阿弥家の鑑定はそのくらい権威があったのだ。
 元々2両で売り払ってくれと言われたのだから、黙って言われるがままに2両で買い取っても何ら問題が無かった筈だが、本阿弥の家では、目利きたる自分が見て正宗とわかっているものを、相手が知らないからと言って黙って引き取るような所行を恥とした。
 大事なのは、他人の目では無く、己の心なのだ。ばれなければ、法を犯してどんな汚い金でも平気で手に入れようとするような輩とは、まるで心がけが違っていたと言うことなのだ。

 この話とは真逆のこともあった。
 光温の祖父の光徳が、あるとき徳川家康に秘蔵の正宗の脇差しを見せられたことがあった。
 これは代々足利公方家の宝とされてきたもので、足利尊氏直筆の添え状まで着いており、家康の自慢の品であった。所が、光徳がその刀を見ると、刀は焼き直しもので到底使い物にならない。そこで見たとおりのことを申し上げると、家康はとたんに機嫌が悪くなり、なにとてさようなことを言うぞ、と心外でならぬふうであった。
 これに対して、光徳は重ねていった。
「尊氏公の添え状があったとて何の用にも立ちませぬ。尊氏公が刀の目利きであったという評判も無く、なにより尊氏公のころは正宗も新身(あらみ)でありました。」
 このように断乎として言ってのけたことから、慮外な奴と、以降2度と光徳を召し出すことは無かったという。
 家康のような絶対権力者であろうとも心にも無いことを言うくらいなら殺された方がましと、正直に見たままを言ってはばからないのが光徳という人であったのだ。
 本阿弥行状記は、どれほどへつらいの無い者であろうと、上様がご秘蔵の刀と承っているのに、しかも御前にて拝見して、何の役にも立たぬ刀でございます、と応えるほど潔い人は、めったにいないであろう。
 徳川家康と言えば、誰もが知っている当時の最高権力者だ。無礼者!と言って切り捨てられても誰も文句も言えないという状況だ。
 そうしたひとつ間違ったら命がなくなるという状況下で、毅然として真実を言うというのは余程肝が据わっていないと出来ることではない。

 現代のようになにごともお金お金で、最も酷いのは外国人技能実習制度というものがあるが、途上国の貧しい人々から搾取するという制度を作り、莫大な金額のお金儲けを謀っている。
 こうしたことを考える自民党という政党というのはどういう神経の人々なのかと思うが、自分たちは巨額の歳費を毎月受け取っていながら、途上国でも貧しい生活を余儀なくされている人々を、外国人技能実習と言う名目で来日させて1日15時間も働くことを強要し、その見返りが日給3500円とか中には殆ど何ももらえない人までいると言う事実に対して、素知らぬ顔でいられる神経には驚くしか無い。この問題については国会でも何度も繰り返し指摘されているのに、まさに蛙の面に小便だ。
 国会議員がこれでは、お金持ちと結婚するにはどうすれば良いか、などとネット上に問いかけをする女が珍しくないのも当然で、自民党の政治屋達と役人どもの悪辣さを考えたら、人と結婚するのでは無く、お金と結婚したがる女など可愛いものだ。
 かつての本阿弥光悦が現代のお金まみれの状況を見たら何というかだが、昔はこういうお金に執着することを卑しいと思う人が少なからずいたのだ。









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