清貧の思想(本阿弥光悦)




2020.09.24.


 中野孝次著「清貧の思想」という本を読んだ。
 この本はとても示唆に富んだもので、一部の知的な人にはとても関心のある内容だと思う。
 圧倒的多数の人には何の関心も示さないとは思うので、続けて何度も読後感を書くと言うことはしない。ただ、たくさん示唆に富んだことが書かれていたので、頭に浮かんだらそのつど続きを書こうとは思っている。

 現代の日本人ビジネスマンは、海外から「彼らはお金の話しかしない。全ての物の価値をお金の価値で計ることしか知らない」などと言われているようなのだが、そうだろうなぁ、とは思う。現実に、自分の周囲にいる人々もテレビに出ている人々の全てが、お金の価値でしか物事の判断をしようとしない人ばかりだから。
 所が、欧米の紳士というものは、社交の場では絶対に金銭の話をしないのだそうだ。何でもお金に換算してしか話をしないような者は、卑しい者と思われている場で、金銭と結びつけての話ばかりをしたがる日本人。
 欧米では普通の家の居間から寝室に至るまで壁の至る所に所狭しとばかりに飾られている絵画を話題にしても、それはどのくらいの金銭的価値なのかを聞いてくる日本人ビジネスマン。
 絵画という物は、本来飾って楽しむための物なのだと言うことがわからない。絵画というのは値上がりを期待するために買うのであって、部屋に飾って楽しむために買うはずの無い日本人。

 この本では、かつての日本人はこのようなことはなかったのだ、ということを現実に生きていた人たちを例に挙げて語っている。 最初に本阿弥光悦と言う人で、この人は並以上の頭を持った人なら名前くらいは聞いたことがあるはず。
 光悦は、今では書と蒔絵などで知られているが、この人が最も好んだのは茶道で、生きていた頃には茶人としても有名だったのだ。
 この光悦が瀬戸肩衝(かたつき)の茶入れを見て、手に入れたいと思ったが価格が高い。黄金30枚という大金で、とても手が出ない。
 それでもどうしてもほしいので家を黄金10枚で売って、さらに人から黄金20枚を借りて手に入れた。
 この新しく手に入れた茶入れが自慢で、この茶入れにお茶を入れて前田の殿様の所に出かけた。
 本阿弥家は、刀の研ぎ、目利き、磨きを家業としていたために光悦の父親の光二の頃から前田利家から扶持を貰っていたほどで、利家の子の利長の代になっても変わらずに、光悦と利長やその家臣たちともつきあいが深かったので、気軽に自慢の品を見せに行ったのだ。
 光悦が、茶入れに茶を入れていって、茶を点てると殿様は大いに気に入られ、そなたは良い茶入れを見つけ出してきた、といって御機嫌であった。
 この様子を見て忖度した家老が、殿様はたいそう茶入れが気に入ったご様子なので、その茶入れを白銀300枚にてお譲り申せ、と言った。
 まあ、普通の人なら殿様の機嫌も考慮して売った家も買い戻せるし、借金も返せると言うことで、大喜びで言われるがままに家老に茶入れを譲ったことだろう。所が、光悦はこれは売り買いのために持参したのではありませぬ、と言って断ったのだ。
 家老たちが入れ替わり立ち替わり光悦を叱りつけたが、決して承知しなかった。

 前田家と言えば、加賀100万石の大大名だ。武士であったとしても家老にお目にかかれるのは、余程身分の高い者で無いと不可能だった。その大大名の殿様の御機嫌伺いに行っていながら、家老に叱責されて戻ってきた。当然大評判になり、だからこそ未だに語り継がれていると言うことなのだが、本阿弥光悦と言う人の人柄がよく出ている話では無いだろうか。
 人はお金だけでは動かない、というのは昔はよくあったことでもあるのだ。

 因みに、この話に書かれているお金に関しては、白銀と黄金という言い方で、価値がわかりにくいのだが、gooの辞書によると「白銀は、銀を長径約10センチの平たい長円形につくって紙に包んだもの。多く贈答用にした。通用銀の三分(さんぶ)に相当する。」とあることから、4分で1両と言うことは知っているので、白銀1枚は0.75両ということになるが、黄金というのもわかりにくい。おそらく、黄金1枚が1両とは思えない。いくら、江戸時代初期には1両の価値が高かったとは言え、10両で家を売ったり買ったりすると言うのは無理があるような気がする。長屋のぼろ屋では無い。大名とつきあいのある人が住んでいた家なのだ。これが200万円足らずというのは信じがたい。
 1両が時代によっても大きく違いがあるが、今の価値にして幕末には5万円くらいで江戸初期は10万円くらいと言う説と16万円という説があるが、200万円足らずで家を売るのかということがあるからだ。
 それとも、江戸時代の初期には家の価値が今とは比べものにならないほど低かった?
 もし、黄金というのが1両小判だとすると、30両で買ったものを225両で売ってくれと言われたことになる。普通の人なら天にも昇る心地になることだろう。








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